猫たちよ安らかに眠れ(その2)
   もう一匹のちいさな天使
(ベビー・ブルー もなか)

<五月の森の精 Baby blueの短い日々> 


1997.3.14〜5.29

綿毛の兄妹
 はなこ Baby pink の同腹の兄弟 Baby blueは、猫ともだちの家で楽しく暮らしていました。 暮らしていく、 筈でした。
 
 新しく猫が来ると、名前をつけるのも楽しみの一つです。 美人顔というかやや釣り目に細めの顔のはなと、ふっくらしてまるい目の顔がかわいいブルーは、対照的な兄妹猫でした。男の子らしくおっとりしたブルー、社交的でにぎやかなピンクとには、同じ親猫から様々な猫が同時に生まれるものだと思わせられました。 
 生まれた季節は春。おいしい桜餅や最中が溢れている。飼い主たちも食いしんぼ。あれこれと考えてみたあとで、blue はもなか、pink はあんこ ということになりました。 
(私の手元にきてからのピンクには花の名前をなにかつけてもみたくて、さくら とかすみれ とか、あれこれ考え、結局平凡さこそいちばんと、はなこ と決めました)
   この子たちの登録名は
 Bellflower(釣り鐘草)でした。


                                          

                             

                                                                                                   
                        

                                          

                       
                                          

 
ブルー、もなかは、飼い主がそんな遊びを楽しんだり、彼自身にしてもあれこれ遊ぶ時間もないままに、遠く旅立っ行ってしまったのです。

水、外来動物たちのふるさと

 
ロシアンブルー種の猫は、私の印象では水が好きです。
 同級生の家にいるニューファンドランド犬は、北アメリカのニューファンドランド出身の水難救助犬。日本でペットになって暮らしている大きな雌犬のグウちゃんは、風呂場の湯冷ましやたらいの水のそばにいることが多いそうです。私が訪れた日も風呂場でねっころがったり、ピチャピチャ水に戯れてご満悦でした。足にもなにやら水掻きがあるようだとか(?)。
 ニューファンドランド犬はおもに寒いカナダなどの港で、漁師たちとともに海産物を運ぶ使役犬として活躍していました。北海道や樺太にかつていたそり犬、カラフト犬やその他の大型犬と同じように。水難者を助けるのに使われたという水を恐れない気質は、人の現れる前からの彼らの永い間の環境に培われたものなのでしょうか。
 ロシアンブルーも、古くから、北方のフィンランドなど森と湖の辺りが彼らの生息場所だったのではないのだろうかと、素人的に考えています。 シベリアでは、森は深く雪は厚く、テンやイタチたちはともかく小型の猫種には、生きるのは厳しすぎる気がします。 
 はなは今でも入浴中、ドアの外でうろうろして、中に入れてとしつこく訴え、ほっておけばバスマットの上でがんばってそのまま眠ってしまいます。当人の体のシャンプーもそれほど嫌がりません。 湯を抜くとそばで動く水にちゃちゃを入れ、舐めたりします。
 夏はお風呂に濡れタオルをしいてベッドにしてやると喜びます。 とにかく水がすき、私がシャンプーすると頭を抱え込んで、一生懸命に髪を舐めてくれたりするのです、とりわけ夏は、水分が涼しく心地よいということもあるのでしょう。


いのち漲る季節は美しくとも

 
昼はおばあちゃんを慕い郊外の家で留守番をしていたもなかは、買い物に出かけたほんのわずかな間に、開いていた風呂場に入って遊んでいるうちに、風呂蓋のわずかな隙間から水に落ちました。 もうすこしでも成長していればジャンプアップも出来たろうに、生後三か月ではそれは無理な風呂の高さです。 水の重さは簡単に、ちいさな仔猫を沈めてしまいました。 
 
 可愛い盛りの仔猫をすこしの油断で失くしては、心の動揺はいかばかり。胸痛む、7年前の初夏のことでした。 詳細は口数少ないともだちから聞かされてはいません。が、そうそうの涙をひそかに落としたことでしょう。 ただ、あんこ、はなこの成長が人並み(猫並み)に順調であったことは一つの慰めです。 男の子のような積極的果敢な性格は、兄、もなかの分まで生きているからかもしれない、二匹はいま私に任されているのかも、などとふと緊張したりするのです。

 凛々しく育つはずの男の子、穏やかな性格のブルーは、おとなの生活を味わうことなく、五月の青い空の高みに昇っていきました。 
 青葉繁れる初夏は、動物も植物も意気盛ん、何もかもがすくすく成長する季節です。 この季節を選び、生を終えてしまったブルーの短い日々でした。 それを、哀しいと思いました。

 
飼い主の友人は自分のサイトのなかに、当初何枚かのぺージを設けこの短く逝った仔猫、もなかのことに触れる予定でした。しかし読むたびに悲しみに襲われ、隠しボタンに数枚写真を載せるにとどめたそうです。いっしょに暮らした日々は短くともその思い出は尽きない。感謝と悔恨を綴った文章たちは、誰の目にも触れず割愛されてしまいました。 

天使の羽に乗って
 
春野の朝の光に、一瞬輝き愛らしい天使の面影を残して、森のなかに還ったもなか。 
 季節の一巡も過ごせなかった忘れられないエンジェル、
ベビー・ブルーもなかよ、...いまは淡い眠りの中でなにを思い出すの? 

 ありがとう、やすらかにおねむり、また逢う日まで……。


                             
           

   
       
も な か へ
                
                 MISHA

      綿毛にゆれた
      やさしいひとみ

      青葉の中に
      旅立つもなか

      愛らしいしぐさに
      八十余日を刻んだもなか

      明日からは夜空の
      星がまたひとつ増える

      たくさんの夢を小さな体で
      運んでくれた もなか

      花咲く丘に静かに眠れ
      花々に埋もれ 眠りに眠れ

      忘れないよ小さな命
      忘れないよ宝石より 美しい
      もなかよ いとしい仔ねこ


                     (1997 May)


                  

      
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