花・春


               り ら の 空


                          ミーシャ


            童話のように小さく老いた
            父と
            母の 庭で
            この空と花の位置をどうしよう
            途方にくれるのは
            豊かすぎる賑わいの
            花の色空の色
            ようこそ と迎えるには
            花は大地に似合いすぎて
            迎えられているのはいつも人間
            見上げれば
            おとめの可愛い乳首のような
            淡いローズマダーのりらたちの花房が
            甘い香りを揺らせている

            短い今年の五月
            深緑の季節を
            おとぎ話のような時は流れて
            黒々の火山灰の台地にりらの花と
            童話の父母が小さく並び緑茶をすすり
            花の位置はもう
            変わらない




     さ く ら


                 ミーシャ


さくらの木に さくらの花
空の青を映し
雲の影を誘い
さくらの枝に さくらの花
私たちの国土を
べにいろに染め上げ
たまゆらを謳いあげる
年経てもどこか
おとめのような 木の花よ

さくらの木に思い出
ちり散りの春
ときめく出会い
不確かな宵冷えに
よぎるもの幾ついく人
さくらの木は黙す
ひたすら てまりの ぼんぼりの
灯りさくらの 色に染まって黙す
さくらの花 さくらの花
生きることのはかなさが
うつくしい花の季節 その下で
愚か者の目にもふと 人らしく
涙うっすら浮ばせもする
その季節

さくらの木に さくらの花
わたくしたち幾千万の心の
古代からつむぎて来し
花への想いは
山に里に古城の丘に
そは滅びしものへの鎮めかまた
生きるものへの讃か

さくらの木 さくらの花
微笑する あやしきその
さくらの下に


        
詩集『黒猫』より