2017  12 月 の 詩
   

                        二 つ の ギ ターー


               ロシア民謡
               八坂裕子 訳

          

                    
           夕闇が立ち込めて 
           身にしみる夜風のつめたさ
           一人おまえは今頃何をしてるだろう
           きこえるかい このつぶやき
           伝わるかい 愛の叫びが
           離れても二人の 燃えるこの炎は
           誰も消せはしない 誰にも奪えない
           かき鳴らすこの胸
           それはただおまえの やさしい指だけさ
           旅する心の痛みをまぎらし
           お前のつもりで つまびく哀しいギター
           夜が更けるまで 夜が明けるまで



           蒼ざめた泣き顔に
           いじらしい微笑み浮かべて
           そんなおまえがこの眼やきつきとても辛い
           きこえるかい このためいき
           つたわるかい 愛の鼓動が
           リラの咲く木陰で 今度会うそのとき
           それが待ち遠しい いとしさ増すばかり
           できるなら今すぐ 
           そのからだ抱きしめ くちづけしたいのさ
           さまようこの手がゆきつく所は
           お前の変わりに囁く悲しいギター
           夜が更けるまで 夜が明けるまで
              
               

              

               




          11 月 の 詩




                 秋 の 句  此道やー



                松尾 芭蕉

          

                    
             ☆ 此道や行く人なしに秋の暮
              
             ☆ 蛤のふたみにわかれゆく秋ぞ

             ☆ こちらむけ我もさびしき秋の暮
              
             ☆ 行秋のなをたのもしや青蜜柑
              
             ☆ 松風や軒をめぐって秋暮ぬ
              
             ☆ おくられつおくりつはては木曽の秋

             ☆ かりかけし田づらのつるや里の秋

             ☆ 秋のいろぬかみそつぼもなかりけり

             ☆ むさし野やさはるものなき君が笠

             ☆ 秋に添うて行ばや末は小松川

             
               
『芭蕉全句集』松尾芭蕉 角川ソフィア文庫 平成25年
      







                    10 月 の 詩




                 月 草 ー叙情小曲集ー


               室 生 犀 星
                    
              
              秋はしづかに手をあげ
              秋はしづかに歩みくる
              かれんなる月草の藍をうち分け
              つめたきものをふりそそぐ
              われは青草に座りて
              かなたに白き君を見る




9 月 の 詩




             あなたの笑顔  


              星乃 ミミナ

       
              
            私がこの星で好きなもの
            朝やけ陽だまり水の音
            花の香りあなたの笑顔
            そして今はもういない お母さん

              
            私がこの宇宙(そら)で好きなもの
            夕やけ三日月風の音
            海の香りあなたの笑顔
            そして今はもういない お父さん


            私がふるさとで好きなもの
            雪解けせせらぎ杜の詩
            春の香り あなたの笑顔
            そして今はもう遠い 愛しい日
              

              

               

                     『ボニージャックス全曲集』  キングレコー ドBEST HIT




 


     
      8 月 の 詩




                 神  様  



               柴 田 トヨ


       

                  
              お国のために と
              死に急いだ
              若者達がいた
              
              今
              いじめを苦にして
              自殺していく
              子供たちがいる

              神様
              生きる勇気を
              どうして
              与えてあげなかったの

              戦争の仕掛け人
              いじめる人たちを
              あなたの力で
              跪かせて

               
「くじけないで」柴田 トヨ 飛鳥新社  2010年
              

               




           7 月 の 詩




                   青春は雲の彼方へ  



                猪又 良
                
                
    
  

                   山に憧れ 山並み越えて
              はるかに見下ろす 花咲く村よ
              ヤッホー ヤッホー
              呼べば応える明るいこだま
              ああ 青春は流れる雲の彼方へ

                        
              胸もふくらむみどりの風に
              手を振るあの子は 野バラか百合か
              ヤッホー ヤッホー 
              生命燃やして小鳥も歌う
              ああ 幸せは流れる雲の彼方へ


              山は夢呼ぶ僕らの大地
              ザイルにつないだ心と心
              ヤッホー ヤッホー
              赤く輝け夕焼け小焼け
              ああ 憧れは流れる雲の彼方へ

              
               
 
『うたの世界 第2集』 ともしび音楽企画 2015年






          6 月 の 詩





                   六   月  



                 茨木 のり子
 
                
                
    
  

                 
 どこかに美しい村はないか

              一日の仕事の終りには一杯の黒麦酒

              鋤を立てかけ 篭を置き

              男も女も大きなジョッキをかたむける

              どこかに美しい街はないか

              食べられる実をつけた街路樹が

              何処までも続き すみれ色した夕暮れは

              若者のやさしいさざめきで満ち満ちる

              

              どこかに美しい人と人との力はないか
 
              おなじ時代を共に生きる

              したしさとおかしさとそうして怒りが

              鋭い力となって たちあらわれる  



           

             
現代の詩人7 茨木のり子詩集』 昭和58年 中央公論社              



      




        5 月 の 詩




                  春の句  




                 松尾 芭蕉                 
                
    
  

                    ☆ 前髪もまだ若草の匂ひかな


               ☆ 散る花や鳥も驚く琴の塵


               ☆ 独りあま藁屋すげなし白つゝじ


               ☆ 摘みけんや茶を凩(こがらし)の秋ともしらず


               ☆ 入逢の鐘も聞こえず春の暮


               ☆ 花にねぬ此もたぐいか鼠の巣


               ☆ 明日の日をいかが暮らさん花の山


               ☆ 蝶鳥のうはつきたつや花の雲


               ☆ 草臥(くたびれ)て宿かるころや藤の花




                              『芭蕉全句集』 角川ソフイア文庫 平成25年







            4 月 の 詩




                 くじけないで  




                 柴田 トヨ                 
                    
  

                 ねえ 不幸だなんて
           
             ため息をつかないで

             
             日射しや そよ風は

             えこひいきしない

             夢は 

             平等に見られるのよ

             私 辛いことが

             あったけれど

             生きていてよかった

             あなたも くじけずに





              
 『くじけないで』柴田トヨ詩集 飛鳥新社 平成22年春

 
             







      3 月 の 詩


                                  我が良き友よ      

    


下駄を鳴らして奴が来る腰に手ぬぐいぶらさげて
学生服にしみ込んだ男の臭いがやってくる
ああ 夢よ 良き友よ
おまえ今頃 どの空の下で
俺とおんなじ あの星みつめて 何想う


可愛いあの娘(こ)に声かけられて頬を染めてたうぶな奴
語り明かせば下宿屋の おばさん酒持ってやってくる
ああ 恋よ 良き友よ
俺は今でも この町に住んで
女房子供に 手を焼きながらも 生きている


家庭教師のガラじゃない金のためだと言いながら
子供相手に人の道 人生などを説く男
ああ 夢よ 良き友よ
便りしたため 探してみたけど
暑中見舞いが返ってきたのは 秋だった


古き時代と人が言う 今は昔と俺は言う
  バンカラなどと口走る 古き言葉と悔やみつつ
ああ 友と 良き酒を
時を憂いて 飲み明かしたい
今も昔も この酒つげば 心地よし


学生達が通りゆくあいつ程ではないにしろ
  まじめなのさと言いたげに 肩で風切って飛んでゆく
ああ 友よ 良き奴よ
今の暮らしに あきたら二人で
夢を抱えて 旅でもしないか あの頃へ
  







         2 月 の 詩


                                ケ サ ラ 


                 
J.フォンタナ C.ペス N.イタロ F.ミゲリアッチ
                       訳 にしむらよしあき
            

    


1.押さえ切れない怒り
  こらえ切れない悲しみ
  そんなことのくり返しだけど
  決して負けはしないさ
  ※ケ・サラ ケ・サラ ケ・サラ
   僕たちの人生は
   平和と自由もとめて
   生きてゆけばいいのさ



2.泣きはらした夜
  迎える朝のまぶしさ
  涙の乾くときはないけど
  決して倒れはしないさ
  ※(くりかえし)



3.いつも思い出すのさ
  自由のために死を選んだ
  グェン・バンチョイ ジョー・ヒル
  ビクトル・ハラを
  決して忘れはしないさ
  ※(くりかえし)



4.広く高く大きく 
  明日に向かって力強く
  人間のやさしさをうたえ うたえ 
  うたえ うたえ うたえ
   うたえ うたえ うたえ 
   人間のやさしさをうたえ うたえ
   明日に向かって力強く 
   広く高く大きく


                           

             1 月 の 詩


                                  寒  雲 


                  
斎藤 茂吉 

    


   雪つもるけふの夕をつつましく
    あぶらに揚げし干し柿いくつ



   あまざらし降り来る雪の小止みなく
    冬の果ての日心にぞしむ



   寒の粥くひおわりたるひと時を
    この世の噺聴かむとおもひし



   最上川の支流の音は響きつつ
    心は寒し冬の夕暮れ



   しづけさは斯くのごときか冬の夜の
    我をめぐれる空気の音す



   赤赤とおこれる炭を見る時ぞ
    はやも安らぐきのふも今日も 



   朝な朝な惰性的に見る新聞の
    記事におののく日に一たびは 



   歌一つ作りて涙ぐむことあり
    世の現身よ我が面をな見そ


   雪山にむかひて歌をよまむとす
    しょぼしょぼとせる眼(まなこ)をもちて

   

     
『日本の詩歌 8 斎藤茂吉』 中央公論社 昭和43年