愛加那の島(南州流鏑地跡)
 

           清水 みどり


黒潮の海に浮ぶ島に
人の歴史は静かに眠る
墓石は島の郷士の娘として
強い日差しの中 独り凛と立つのだった
その人の名は 
龍 愛子
加那 は愛しい人の呼び名という

薩摩の侍の流鏑の地は
素朴な島人が今も住む小さき
うつくしき島 奄美

島人らは大男を初め恐れていたが 
心の大きさにいつか惹かれて
二人の婚礼の祝いは賑やかだったが三年後
時代はまたこの侍を必要として連れ去った
海を隔て二人が会うことは
二度とないまま

島妻は
やがて2人の吾が子も引き渡し
二部屋の家に独り暮らし 
吾子らの手紙を唯一の楽しみとし
明治も固まるその三十五年
六十五歳でみまかった

豪雨の野良に出かけて倒れそのまま
ひとりこの世から去った
強く聡明な島むすめ
愛加那

明治も遠い今もなお
奄美と鹿児島とは伝説となった二人の
メモリアルを共にすることはなく
島人の
愛加那への思いはあまりにも深い

心広き侍 西郷南州は国の未来を信じ
歴史の波間を薩摩に散ったが
短き愛の日々をすごした青き島 この家屋に
心を寄せ苦難の日を
ともに過ごした愛しい人の墓をいまは
守り続けているだろう



          (2005 June)


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